Lo-Fi House(ローファイ・ハウス)/Raw House(ロウ・ハウス)とは
※ DJ Boringの「Winona」の画像が実質的にLo-Fi Houseのシンボルのような扱いとなっています。(YouTube検索や画像検索で必ずウィノナが出てくるため、自然とそういう認識になったとの事)ただしDJ Boringがウィノナ・ライダーをラベルに使用した事実はありません。
※ Raw House(ロウ・ハウス)、Outsider House(アウトサイダー・ハウス)といった呼び名もありますが、2016年頃からmixmag(ミックスマグ)等のクラブ音楽各誌ではLo-Fi House(ローファイ・ハウス)での記載に落ち着いたようです。(Lo-Fi Hip Hopと命名規則を合わせるため、もしくはRaw House検索だと家の情報ばかり出るため)
ローファイ・ハウスとは
Lo-Fi(Low-Fidelity)とは、音楽のレコーディングの際の録音状態、録音技巧の一つで、極端にクリアではない録音環境を志向する価値観を指します。
ローファイ・ハウスは、かつて90年代のオルタナ/インディーロックがTEACの4トラックレコーダーを使っていたのと同様に、クリアなサウンドを志向した商業向けの楽曲に対するアンチテーゼと言えます。あえてアナログ(とは言え旧デジタル楽器は使用、最近はDTMのLo-Fiサンプルパックを使用)な機材を使用し、ノイズを含み、ザラつき、こもった音が醸し出すグルーブ感や温かみを活かすという目的もあります。
ハウスのアンダーグラウンドシーンにおいて、2010年代前半(2013年頃)からじわじわと普及しており、このオールドスクールな音を求める志向はSNSなどのインターネットを舞台とした現象と言われています。
EDMダンスに代表されるような現在の電子音楽の明瞭な音色を退屈(もしくは不快)だと感じ、汚れた音色を追い求める彼らの美学は、ダンスミュージック全体にパラダイムシフトをもたらす可能性も秘めています。
当のローファイ・ハウス制作者達も元々ヘッドフォン・リスニングを前提としてサウンドを創り上げているため、クラブのハイエンド・スピーカーから歪んだ音が鳴るという矛盾にジレンマを感じてはいるようですが、増え続ける支持者達、リスナー達はそんな事など全く気にしていない様子です。
現在多くのLo-Fi HouseがYouTube上で閲覧できますが、画像を丸く切り取ってあたかもラベルのように表示するのが慣例となっており、一目でそれと分かります。曲のタイトルにも笑ってしまうほどユニークなものがあります。
代表的なYouTube Channel – Slav
代表的なYouTube Channel – DeepBeliever
Spotify上でMixmag(ミックスマグ)が提供しているプレイリスト
(当然ヴォーカリストを雇う予算などないので)これまでにリリースされているローファイ・ハウスの大半がノンヴォーカルのインストゥルメンタル曲で、その多くがbandcamp(バンドキャンプ)上で販売されているという共通点もあります。
Garage/Deep House のスピリットを受け継ぐサブジャンル
ただ、ローファイという用語そのものは「音楽のオリジナリティ」を規定する言葉ではありません。
リズムパターンやシンセ音なども(初期のStrictly Rhythm Recordsを想起させるような)NYガラージ・ハウスやアシッドハウスなど、従来のDeep House(ディープハウス)系の音楽を継承しており、それを濃厚なサウンドへと改良したディープハウスのサブジャンルと捉えることができます。
(※ Garage:ガレージ、ガラージ、ガラージュ等の表記バリエーションがあります。ハウス黎明期の日本では黒人訛りの発音にならい、ガラージュと表記していました。)
欧米の歌謡曲をハウスに加工してダンスポップ化するのが当たり前になってしまった現在、生粋のダンスミュージックから誕生した黎明期のハウスミュージックの理念=狭義のディープハウスの理念を保ち続けている数少ないジャンルの一つと言えます。
サンプル)Ross From Friends – Golf School [2015]英 lo-fi House
Ross From Friends – Golf School 原曲を表示
インターネットを通じて容易にリリース出来るため、中にはSpoof House(スプーフ・ハウス)と蔑視されるような、おフザケで作られた非常にチープな楽曲も含まれています。評価と選定がこれからの課題です。
差別化
ローファイなサウンドを採用しているのはブームに乗ったインディーリリースの新規参入DJ陣だけではありません。一端を挙げれば、ジャンルは若干違いますが DJ Sprinkles(DJスプリンクルズ) やDJ Koze(DJコーツェ)、Marquis Hawkes(マーキス・ホークス)、Lone(ローン) のようなミュージシャンもブーム以前からローファイを志向していました。
最近のR&BでKaytranada(ケイトラナダ)のようなローファイ志向のリミキサーがもてはやされるのも、このブームの予兆のようなものかも知れません。
つまり今回のブームの主役達が登場する以前から、ローファイの試みは続いていたので、専売特許とも言いづらいという事です。彼らがLo-Fiをカテゴライズして特定の派閥を形成するのか、音楽シーン全体に溶け込んでしまうのか、が注目されます。
(追記:現状ではVaporwave、Disco-House、Lo-Fi Houseともに、ブートレグ=著作権無しのRemixで勝手ができる登竜門としてSoundcloudとYouTube(AIマッチングされない限り比較的緩い)上で公開されており、レーベルに注目された曲は著作権整理された上でオフィシャル公開にこぎつける流れとなっています。BBCも先走ってオンエアすることが多々あり、中にはオフィシャル化に至らずプレイリストから外れるものも。)
DJ Sprinkles (a.k.a. Terre Thaemlitz) – Hush Now
DJ KOZE – Magical Boy
Marquis Hawkes – Fantasy
Lone – Vapour Trail
参考:How To Make Lo-Fi House like Mall Grab、DJ Seinfeld、Ross From Friends、DJ Boring
主要アーティスト
- DJ Boring
- Ross From Friends
- DJ Seinfeld
- Mall Grab
- TRP
- Grant
- Florian Kupfer
- Patricia
- Contours
- Baltra
- Folamour
- Route 8
- Shedbug
- J. Albert
- Rudolf C
- Trudge
- Tlim Shug
2015年の代表曲
現在はBBC Radio 1 で不定期に番組を持つまでになったRoss From Friends(ロス・フロム・フレンズ)。たまたまローファイで注目されただけのDJではなく、日本の80sソングにまで目配りするディガー系の独特な選曲など異色の才能を持っています。
Ross From Friends – Talk To Me You’ll Understand [2015]英
Mall Grab(モール・グラブ)は、ローファイハウス出身DJ達の中でも一番の出世頭、ダンスヒットをキープしながら現在は「Steel City Dance Discs」レーベルを主宰してロンドンで活躍しています。
Mall Grab – Feel U [2015]豪(英)
Baba Stiltz – Cherry [2015]スウェーデン
2016年の代表曲
DJ Boring – Winona [2016]豪(英)
Baltra – Never Let Go Of Me [2016]米
Trudge (Alexandre Corchia) – Give [2016]仏
2017年の代表曲
定番曲、DJサインフェルド – I’ll Always Pick U Up
BBC Radio 1 B.Traits姉さんも大のお気に入り、RA(Resident Advisor)ではローファイハウスで唯一、2017年Best House Trackに選出された超定番曲です。
DJ Seinfeld – I’ll Always Pick U Up [2016/2017]スウェーデン
ハウスレーベルBody Fusionを主宰するベルファストのDJ/プロデューサー Bobby Analog(ボビー・アナログ)より。
Bobby Analog – When Will the Day Come [2017]英(北愛)
Folamour – When U Came Into My Life [2017]仏
DJ Boring – Different Dates [2017]豪(英)
CoastDream – Soft Moon [2017]伯
Lo-Fi Hip Hop(ローファイ・ヒップホップ)もこなすコペンハーゲンの音楽プロデューサー/DJ、iamalex(アイアムアレックス)より。
iamalex – 1998 (ft. Hazy Year) [2017]デンマーク
2018年の代表曲
Young Romantic – MOVE (Time to Get Loose) [2018]
ローファイ・ハウスから誕生したNu Disco(ニュー・ディスコ)ヒット!
Young Romanticという正体不明のアーティストからリリースされたこの曲の実体は、ローファイ・ハウスの旗手、オーストラリアのMall Grab(モール・グラブ)によるインスト曲「Feel Good House」をベースに英国のElliot Adamson(エリオット・アダムソン)が1984年Carmenの「Time to Move」をミックスしたヴォーカル版ブートレグ「Feel Good House (Elliot Adamson EAcapella)」としてリリースされていた曲から、ローファイ成分(歪み)を抑えて別名で一般向けに再リリースされたものです。
2019年3月には更にその「Move」のFuture House(フューチャーハウス)カバーまでがクラブチャート入りしてしまうという人気ぶり。
Oliver Heldens & Lenno – This Groove [2019]蘭 Future House
Moomin – Maybe Tomorrow [2018]独
ドイツ・ベルリンの音楽プロデューサー/DJ、Moomin(ムーミン)ことSebastian Genzの2018年5月リリース曲。Nujabes(ヌジャベス)をはじめとするJazzy HipHop/Lo-fi HipHopとの共通点も感じられます。(やってる事は同じですね!)
Nujabes – Psychological Counterpoint [2007]日本
2019年の代表曲
Loods – Walking Away [2019]英
ローファイハウスの旗手、Mall Grab(モール・グラブ)が主宰するレーベル「Steel City Dance Discs」から、ロンドンの音楽プロデューサー/DJ、Loods(ルーズ)より2019年7月リリースのディスコハウス、BBC Radio 1 ヘビロテ曲。原曲は1973年ダイアナ・ロス「Touch Me In The Morning」をカバーした1979年Marlena Shaw(マリーナ・ショウ)のバージョン。
Vigile – Tell Me Why [2018-2019]
UKエジンバラの音楽プロデューサー/DJ、Vigile(ヴィジル)2018年リリース、2019年になって注目された曲です。Chic(シック)のナイル・ロジャース&バーナード・エドワーズのプロデュースによる1982年カーリー・サイモン「Why」とそのカバーである1999年Glamma Kidsの「Why」をミックスしたローファイハウス! BBC Radio 1 ローテーション曲。
Yann Polewka – La French Teuch (Cody Currie Remix) [2019]仏
フランスの音楽プロデューサー/DJ、Yann Polewka より2019年6月リリース曲。
jamesjamesjames – Glamorous [2019]豪
米ビバリーヒルズ出身ブリスベン在住、ローファイハウスからhyperpop風味のテクノまで手掛けるギャルファッション大好きノンバイナリーDJ/音楽プロデューサーの jamesjamesjames(ジェームズジェームズジェームズ)より。原曲はHarlow(ジャック・ハーロウ)の大ヒット「First Class」でも使われた2006年ファーギー feat. リュダクリスの「Glamorous」。
jamesjamesjames – Glamorous 原曲を表示
AceMo – Where They At??? (ft. John FM) [2019]米
NYのDJ/プロデューサー AceMoより、90年代ハウスアンセムRobin Sの「Show Me Love」をサンプリングした曲。
2020年の代表曲
Obskür – Bayside [2019/2020.11]アイルランド
Slavにもリストアップされている2019年ダブリンの音楽プロデューサーデュオ Obskür(オブスキュア)によるローファイハウスが2020年11月 FFRR Recordsによって正式リリース。 BBC Radio 1 ヘビロテ&ロングプレイ曲。サンプリングネタは Wildchild/Fatboy Slim/Friend Withinらの「Renegade Master」で使用されてきた1994年A.D.O.R.の「One For The Trouble」。
Mall Grab – Room Full Of Rothko [2020.12]豪
ローファイハウスの旗手 Mall Grab(モール・グラブ)より、BBC Radio 1 ローテーション曲。ローファイハウスで名を揚げたDJ達は次第にローファイでなくなってゆきますが、スピリットだけは保ち続けています!
2021年の代表曲
Qrion – Proud [2021.10]日本
Qrion – Jones St. [2021.10]日本
Tomorrowland 2018やEDC 2021に出演、フォーブスの30 Under 30 Japan 2020にも選出、10月29日にデビューアルバム『I Hope It Lasts Forever』をAnjunadeep(Above&Beyond主宰のレーベル)からリリースした札幌出身サンフランシスコを拠点とする日本人女性DJ/音楽プロデューサー/トラックメーカー/リミキサー Qrion(キュリオン) によるディープハウス/Lo-fi House(ローファイハウス)! サンプリングは1983年デニース・ウィリアムスの「I’m So Proud」。BBC Radio 1 ローテーションx2曲。
2022年の代表曲
Amy Dabbs – Til You See [2022.5]独
POSER – Je T’aime [2022.6]アイルランド
LOSTBOYJAY – Could Be Wrong [2022.12]加
トロントのDJ/プロデューサー LOSTBOYJAY(ロストボーイジェイ)より、Slavもリストアップ、YouTubu上にも多くのコピー動画がUPされている ローファイハウス調の話題曲、BBC Radio 1 ローテーション。原曲はオランダのLucas & Steveも使用した1994年Brandy(ブランディー)のヒット「I Wanna Be Down」。
LOSTBOYJAY – Could Be Wrong 原曲/関連曲を表示
主要レーベル
以下に主要なレコードレーベルと代表曲を紹介します。
Lobster Theremin(ロブスター・テルミン)
UK、ロンドンのレーベル。
Grant – Contemporate Reality [2016]
TRP – Pano [2016]
L.I.E.S. Records(ライズ・レコーズ)
アメリカ、NYのレーベル。
Florian Kupfer – Lifetrax [2013]
E-BEAMZ
UKのLo-Fi Houseレーベル。
Opal Tapes
UKのレーベル。
Patricia – Josephine [2013]
Basic House – Cones [2015]
Axe on Wax
https://axetraxx.bandcamp.com/
UK、ロンドンのレーベル。
Shall Not Fade
https://shallnotfade.bandcamp.com/
UKのレーベル。
1080p
https://1080pcollection.bandcamp.com/
カナダ、バンクーバーのレーベル。
The Lauren Bacall
https://thelaurenbacall.bandcamp.com/
アメリカ、ロサンゼルスのレーベル。
LiveJam Records
https://livejamrecords.bandcamp.com/
http://www.livejamrecords.net/
UK、ロンドンのレーベル。
Renascence
https://renascence9293.bandcamp.com/
フランス、パリのレーベル。
その他
Mall Grab – Feel U [2015]
Mall Grab – Sun Ra [2016]
Mall Grab – Can’t [2016]