Trap / Trap Music(トラップ)とは – 音楽ジャンル
トラップとは
トラップとは元来ヒップホップのサブジャンルの1つで、現在メインストリームにおいて人気を獲得している音楽の1つです。
日本のリスナーが「トラップ」を語る場合、いわゆる「EDMトラップ」とその発展形を指していることが多く、ここではヒップホップとの関係を明らかにするためにサザン・ヒップホップから順を追って解説します。(エレクトロだけの用語ではないため)
トラップの意味
Trapという言葉自体はストリート由来のもので、ドラッグハウス、麻薬の使用・取引の場所を意味します。実際、トラップのラッパーはよくドラッグや麻薬ギャングに関するラップソングを制作しています。
<Gucci Mane – Trap House 歌詞>
トラップハウスで、トラップハウスで、トラップハウスで
床の上に自動小銃、ソファの上にピストル
金持ちだから銀行口座なんて持ったこともなかった
ジャンキー達が入ってきて、ジャンキー達が出ていく
トラップハウスで100ドル稼いだ
ただしトラップ・ソングは上記の内容に限定されるわけではなく、普通の生活に関するテーマも扱います。
つまりトラップ・ミュージックの歌詞の本質は、ストリートの生活をリアルに観察した内容を歌い上げたものだという事です。もちろんキャッチーなパーティーチューンにもなります。
トラップの起源
トラップ・ミュージックは1990年代にアメリカ南部のサザン・ヒップホップから興り、2000年代初期にメインストリームで成長し始めました。 そして2000年代に入るとDJ達はシンセサイザーとCrunk(クランク)を融合させて、本物のトラップサウンドを作り出します。
DJ Spanish Fly – Black Radio [2001] Southern Hip-Hop / Proto-Crunk
Jermaine Dupri – Welcome To Atlanta ft. Ludacris [2002] Southern Hip-Hop / Proto-Crunk
Gucci Mane – Red Eyes [2001] Southern Hip-Hop / Proto-Trap
T.I. – Rubber Band Man [2003] Southern Hip-Hop / Proto-Trap
Young Jeezy – Trap Star [2005] Southern Hip-Hop / Proto-Trap
Crunk(クランク)
1990年代初期に始まり、2000年代中期にメインストリームに発展したヒップホップ・ミュージック。サザン・ヒップホップのサブジャンルで、よりダンス/クラブ向けを志向したアップテンポな楽曲を指します。代表的アーティストはLil Jon(リル・ジョン)など。キーボードシンセとドラムマシン、ヘビーなベースライン、シャウトするバッキングヴォーカル、コール&レスポンス(ラップの合の手を入れる)などが特徴。
サザン・ヒップホップという同じ起源を持ち、トラップの原型でもあるため、トラップの親戚関係にある音楽と言われます。またクランクの中心人物、Lil Jon(リル・ジョン)は、トラップの発展にも大きく絡みます。このクランクミュージックはトラップの隆盛とともに減少してゆきます。
YoungBloodZ – Damn! ft. Lil’ Jon [2003] Crunk
最も売れたクランクの楽曲、アッシャーの「Year!」
YouTube再生7億ビューを超えるメガヒット曲です。
Usher – Yeah! ft. Lil Jon, Ludacris [2004] Crunk
Ciara – Goodies ft. Petey Pablo [2004] Crunk
Lil Jon & The East Side Boyz – Get Low [2005] Crunk
Crunkから派生したもう一つのジャンル、Snap(スナップ)
Crunk(クランク)のゆったりしたバージョンと呼ばれ Trap(トラップ)のチキチキ音も備えている、両者の中間的なジャンル Snap Music(スナップ・ミュージック)の代表曲です。その名の通り指パッチン=Finger Snap(フィンガー・スナップ)でリズムをとるのが特徴です。
D4L – Laffy Taffy [2005]米 Snap
Soulja Boy Tell’em – Crank That (Soulja Boy) [2007]米 Snap
Soulja Boy Tell’em – Crank That 関連曲を表示
Nicki Minaj – Beez In The Trap ft. 2 Chainz [2012]米 Snap / Hardcore Hip Hop
Trap(トラップ)
Gucci Mane – My Kitchen [2007]
Trap-A-Holics & DJ Rell – ATLiens (Young Jeezy, T.I. & Shawty Lo)
メインストリームでのトラップ人気を確立した記念碑的なアルバム(Mixtape=インディーリリース)です。
Young Jeezy Ft. Jay-Z- I Put On [2008]
T.I. – Whatever You Like [2008]
トラップのサウンドについて
大雑把に言えば、トラップは以下の3つの要素が3分の1ずつ入っていると説明すればピッタリ来ます。
HipHop(ヒップホップ)
ラップソング、曲のテンポは同じくBPM 70~110くらい
Dance Music(ダンスミュージック)
オランダのシンセワークやハードスタイルのサンプリング、EDMソングの要素など
Dub(ダブ)
ヘビーな低音域、曲全体の反復性を強調するなど
トラックを制作する際には、ブラス、トライアングル、トリプル・ハイハット、ラウドキック、スナッピー・スネア、そしてTR-808のベースサンプル音などが使用されます。パーカッション・サンプルには、通常、Roland TR-808ドラム・マシンのものが使われます。
参考)DIRTY 808 Trap & Bass Samples
トラップを説明する上で、トラップサウンドを築きあげてきた音楽プロデューサー達を避けて語ることは出来ません。制作スタイルはさまざまですが、DJ Toomp(DJトゥーンプ)、Shawty Red(ショーティ・レッド)、Drumma Boy(ドラマ・ボーイ)、Mannie Fresh(マニー・フレッシュ)などが著名なトラップのプロデューサーとして挙げられます。
そしてさらに、前述のYoung Jeezy、T.I.の成功に続いて、新しい音を探し求めてきたLex Luger(レックス・ルガー)などのアーティスト達がトラップに目をつけるようになります。
Waka Flocka Flame – Hard in Da Paint [2010]
2009年/2011年 レックス・ルガーのプロデュース作品
Meek Mill feat. Rick Ross – Ima Boss [2011]
Jahlil Beats(ジャリル・ビーツ)のプロデュース作品
トラップの普及
トラップは2009年にヒップホップシーンのメインストリームで爆発して以来、強い存在感を維持してきました。今日では、Future(フューチャー)、Young Thug(ヤング・サグ)、そして(トラップ度は低いものの)Drake(ドレイク)などのアーティストが飛躍しています。
Fetty Wap – Trap Queen [2014]
2015年には隻眼(せきがん)の新人、Fetty Wap(フェティ・ワップ)が「Trap Queen」を大ヒットさせ、メインストリームでのトラップの存在感を示しました。
Beyoncé – 7/11 [2014]
Drake – Hotline Bling [2015]
そして2015年にはDrake(ドレイク)は、Future(フューチャー)とコラボレートすることで、アルバム「Views」全体においてトラップのサウンドを探究することに成功します。
Future – Low Life ft. The Weeknd [2016]
Rae Sremmurd – Black Beatles ft. Gucci Mane [2016]
その後のトラップはドラム&ベースを重厚に変化させてゆきます。
Meek Mill – Going Bad feat. Drake [2018]
2019年のトラップサウンドの行方を決定づけたミーク・ミルのメガヒット! 音が歪むほどに低音を増幅させLo-Fi(ローファイ)風味を加えたノイジーなアレンジ。
DaniLeigh – Lil Bebe [2018]
エモ・ラッパー Juice WRLD(ジュース・ワールド)のメガヒットもトラップサウンドを組み込んでおりEmo Trap(エモ・トラップ)とも呼ばれます。
Juice WRLD – Lucid Dreams [2018]
Post Malone – Better Now [2018]
トラップがBPMを上げてきた2019年
トラップをさらにピッチアップすることでドライブ感を持たせポップスとの親和性を高めたフォーマットは2019年の流行となりました。
Young Thug – The London ft. J. Cole & Travis Scott [2019]
Megan Thee Stallion – Hot Girl Summer ft. Nicki Minaj & Ty Dolla $ign [2019]
DaBaby – Intro [2019]
ポップ・アーティストのトラップ導入
アリアナ・グランデやジャスティン・ビーバーまでがトラップソングに参加! このリズムトラックには唱法の変更が伴うことにも注目です。
Ariana Grande – 7 rings [2019]米
Ed Sheeran – Take Me Back To London (Remix) feat. Stormzy, Jaykae & Aitch [2019]英
Justin Bieber – Yummy [2020]米/加
Kim Petras – Reminds Me [2020]米
West Side(ウェッサイ)方面の変化
伝統的なWest Coast HipHop/G-Funkの系譜にある楽曲もアトランタが主導してきたトラップの長所を取り込み、クラップを多用したハイブリッドなリズムトラックへと変化しています。
Likybo – Kraazy [2020]米 CA
Shoreline Mafia – How We Do It (feat. Wiz Khalifa) [2020]米 CA
EDM Trap(EDMトラップ)の誕生
EDMがトラップへの入口となるケースが多いため、おそらくここからが、日本の多くのリスナーの関心のあるところでしょう。
ダブステップの影響を受けそれを組み込んでいるため、アーティストによっては「Trapstep(トラップステップ)」「Trap-techno(トラップ・テクノ)」などと命名している場合もあります。
Baauer – Harlem Shake [2012]米
2013年にはバウアーの「ハーレム・シェイク」がインターネット・ミームになるなど、トラップサウンドを採用したEDMソングが注目を集めるようになります。Diplo(ディプロ)率いるMad Decent(マッド・ディセント)レーベルからのリリースです。
TNGHT – Higher Ground [2012]英/加
ユニークなビートでEDMにトラップが組み込まれるきっかけとなったもう1つの曲、TNGHT(トゥナイト)の「Higher Ground」。DMC(DJ世界選手権)ファイナリストの経歴を持つビートメイカーにしてFuture Bass(フューチャーベース)のパイオニア、HudMo(ハドモ)ことHudson Mohawke(ハドソン・モホーク)による曲です。
そして2013年には、巨大フェス「Ultra」に5人のEDMトラップのプロデューサーが出演し、もう一つの巨大フェス「Tomorrowland」ではトラップ専門ステージが設けられます。
DJ Snake, Lil Jon – Turn Down for What [2013]仏/米
EDMトラップを世界的な人気に押し上げた曲、DJスネイクとリル・ジョンの「Turn Down for What」が爆発的ヒットを記録します。(これもインターネット・ミーム)
(別れた女の電話番号やるよ、番号間違ってるけどなw、ヒャッハー!というバトルラップネタ、周りのオーバーリアクションが肝)
Dillon Francis, DJ Snake – Get Low [2014]米/仏
悪ノリソングを作らせたら絶品のディロン・フランシスによる大ヒット曲。
他ジャンルへの影響
トラップを組み込んだトロピカルハウス、Lean On
YouTube再生30億ビューを突破したTropical House(トロピカルハウス)最大のヒット! BBC Radio 1 のDJクルーの1人でありベース・ミュージックを知り尽くしたMad Decentレーベル主宰者、Diplo(ディプロ)によってReggaeton(レゲトン)~ Moombahton(ムーンバートン)とTrap(トラップ)がブレンドされたリズムトラックに注目!
Major Lazer & DJ Snake – Lean On (feat. MØ) [2015]米/仏
トラップとグライムのハイブリッド、German Whip
トラップの要素もふんだんに持つ、Grime(グライム)のヒット曲です。
Meridian Dan ft Big H & JME – German Whip [2014]英
Trends & Boylan – Norman Bates
こちらはトラップとグライムとダブステップのハイブリッド型。ヒッチコックのサスペンスホラー名作「サイコ」からのサンプリング、楽曲タイトルはもちろんアンソニー・パーキンス演じる殺人鬼の名前です。
Trends & Boylan – Norman Bates [2016]英 Dubstep/Trap/Grime
トラップとダブステップのハイブリッド、Purple Lamborghini
2016年にはSkrillexがRick RossとのコラボでHybrid Trap(ハイブリッド・トラップ)の大ヒット曲「Purple Lamborghini」をリリース。トラップとダブステップとの相性の良さも示します。
Skrillex & Rick Ross – Purple Lamborghini [2016]米
トラップとヘヴィメタルのハイブリッド、トラップメタル
「スカ―藩主」の日本語名を堂々と掲げるYouTuber出身のUKラッパー scarlxrd(スカーロード)より。Trap(トラップ)とHeavy Metal(ヘヴィメタル)の要素を組み合わせた Trap Metal(トラップメタル)と呼ばれる楽曲スタイルで、日本の漫画/アニメ「東京喰種 トーキョーグール」に影響された黒いマスクがトレードマークです。
scarlxrd – LIES YXU TELL [2017]英
トラップとハイパーポップのハイブリッド、レイジビーツ
XXXTentacion や Juice WRLD等のEmo Rap(エモラップ)の系譜にあり、Trippie Redd(トリッピー・レッド)に代表されるEDM/hyperpopとTrapのハイブリッドなジャンル、Rage Beats(レイジビーツ)/Rage Rap(レイジラップ)、さらに短縮してRage(レイジ)の代表曲。「Miss The Rage Type Beat」⇒「Rage Type Beat」の呼称からレイジビーツの語源となった曲です。
Trippie Redd – Miss The Rage ft. Playboi Carti [2021.1-8]米
トラップミュージックの重要アーティスト
アーティスト
- Future(フューチャー)
- Young Jeezy(ヤング・ジージー)
- T.I.(ティーアイ)
- Yong Thug(ヤング・サグ)
- Gucci Mane(グッチ・メイン)
- Waka Flocka Flame(ワカ・フロッカ・フレイム)
- Chief Keef(チーフ・キーフ)
- Three 6 Mafia(スリー・シックス・マフィア)
- Manny Fresh(マニー・フレッシュ)
- 2 Chainz(トゥー・チェインズ)
- Rick Ross(リック・ロス)
プロデューサー
- Lex Luger(レックス・ルガー)
- Zaytoven(ゼイトーヴェン)
- Young Chop(ヤング・チョップ)
EDM編 加筆予定!! Trapはシカゴで発生したDrill(ドリル)へと続きます…